認知症JR事故の最高裁判決

2016-03-02

昨日,認知症で徘徊中の男性が列車にはねられて死亡した事故についてJR東海が家族(妻及び長男)に損害賠償を求めた訴訟の最高裁判決が出ました。ニュース等での報道のとおり,家族側の逆転勝訴でした。

この件では,認知症の男性の妻は当時85歳で,左右下肢に麻痺拘縮があり要介護1の認定を受けており,男性の介護も長男の嫁の補助を受けて行っていたということでした。そして,長男は横浜市に住んでいて,父と母が住んでいた愛知県の実家には月3回程度しか行くことができませんでした。

本件での争点は,①このような状況でも妻と長男は監督義務者なのか,②監督義務者だとしても監督を怠ったと言えるのか,というものでした。要介護1の状況にある高齢者や横浜と愛知という遠く離れて住んでいる者に監督義務を果たせというのは酷に思えます。

最高裁は,監督義務者か否かは,介護者自身の生活状況や心身の状況などとともに,認知症の者との親族関係の有無・濃淡,同居の有無その他の日常的な接触の程度,認知症の者の財産管理への関与の状況など介護者と認知症の者との関わりの実情,認知症の者の心身の状況や日常生活における問題行動の有無・内容,これらに対応して行われている監護や介護の実態など諸般の事情を総合考慮して決まると判示しました。

本件では,妻は自身が要介護1の状況にあるため監督は現実に行うことができず,長男は横浜市に居住して東京都内で勤務しており,本件事故まで20年以上も父と同居しておらず,本件事故直前の時期においても1箇月に3回程度週末に実家を訪ねていたにすぎないということで,監督義務者ではないとされ,責任は負わされませんでした。

ここで注意をしたいのは,認知症の者と同居して介護を行っている者が元気であれば,監督義務者(厳密には「法定の監督義務者に準ずべき者」)となる可能性が高いことです。監督義務者であれば,監督を怠っていないことをこちらで立証しない限り,責任を負わされてしまいます。どの程度の監督をすれば責任を負わされないかは今回の最高裁判決では判断されませんでしたが,以下のとおり,参考になる意見は付されました。

本件で認知症の男性が外に出たのは,妻がほんのわずかの時間,うたた寝をしてしまった間でした。そして,男性が外に出たときに通った出入り口には,来客がわかるようにセンサーチャイムが設置されていましたが,当時,電源は切ってありました。このことをもって,一審や二審判決は妻や長男の責任を認めました。

この点につき,今回の判決を出した5人の裁判官のうち1人は次のように判断しました。つまり,センサーの電源が切られていたという問題もないわけではないが,今までは週6回のデイサービスの利用や妻及び長男の嫁の現実の見守りと付添いという体制で徘徊問題が生じていなかったのであり,センサー等が機能するように設備を整えることを要求することは一般通常人を基準とすると過大な要求といわざるを得ず,長男は徘徊行為を防止するための義務を怠りなく履行していた,と判断したのです。

また,「週6回のデイサービスの利用は,一般通常人としての徘徊防止措置としては相当効果のある対策を立てているといえよう。」「仮に他の対策を立てるとなると,既にデイサービスを週6回利用しているところからすれば施設入所を検討することになろうが,施設入所は望ましいものではないとの助言などもある段階では,施設入所に至らなかったとしてもやむを得ないといわねばならない。」とも判断しておりますので,参考にされて下さい。

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